ドラグニール村の崩壊
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ドラグニール村の崩壊
四方に広がる炎が、
耳を塞ぎたくなる程の唸り声を上げている。
熱風に煽られた黒煙が容赦なく襲いかかり、
君の眼に涙をにじませる。
「大丈夫か?」
旅の吟遊詩人・ペリドットが、翠色の目で君を見つめ、訊いた。
反射的にうなずく。
しかし、途方もなく残酷な現実を目の前にして、
君の足は小刻みに震えていた。
昨日まで、皆が笑顔で暮らしていた村が、
いま、多くの犠牲者と共に灰に帰そうとしている。
「ムリはするな。私だけでも捜索はできる」
君はかぶりを振り、震える足で一歩前に踏み出した。
足下で、炭化した木片が儚く折れて、火の粉を撒いた。
「行こう」
ペリドットは静かに、しかし力強い口調で言った。
「必ず生存者がいる。一人でも多くの村人を助け出すんだ」
君とペリドットは二人の生存者を見つけ出した。
「教えてくれ。いったい何があった?」
治療魔法を唱え終えたペリドットが、二人に尋ねる。
老いた瞳に、悲哀と憎しみをにじませて答える。
「帝国だ。インシディア帝国軍が、突然襲ってきたのだ」
にわかには信じられない言葉だった。
「まさか…こんな小さな村を、なぜ?」
「そんなこと、こっちが聞きたいくらいだ!」
もう一人の生存者、
眼は血走り、食いしばった牙が圧力に負けて、
今にも折れそうだった。
「本当に、突然だったんだ。
俺も、あいつも必死に抵抗したんだが…あいつは…」
ギリアムはハッと言葉を詰まらせた。
そして、打って変わって、哀しい視線を君に投げかける。
「…すまねえ。オマエの兄貴は、もう…」
その言葉の意味を理解し、息を吞んだ刹那、
ーーきゃあああああああああああああっ!
「あのヒツジ女、生きてやがった!」
ジュウベエも苦痛に顔を歪ませながら、なんとか立ち上がる。
「急ぐぞ。今の悲鳴…タダゴトではあるまい」
君とペリドット、そして二人の生存者は、
声の聞こえた場所へと急ぐ。
火の海の間に、女が力なく横たわっているのが見えた。
そのもとに急ごうとした矢先、
地鳴りと共に、足元が大きく揺れた。
爆発音が耳をつんざき、灼熱の炎風が周囲を取り囲む。
耳鳴りが収まり、舞い上がった火の粉が晴れて、
やっと君は前を向く。
燃え盛る獄炎をまとった巨大な竜が、
存在するはずのない、神話の生物が、
静かに君を見下ろしていた。
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